「手順書を作ろうと思いながら、何年も手がつけられていない」。中小企業の経営者や現場の方から、よくうかがうお話です。日々の仕事に追われるなかで、文章をまとめる時間をとるのは簡単ではありません。
いまはAIに頼めば、それらしい手順書の文章が数分でできあがります。書く手間が大きく減ることは、まちがいなく心強い変化です。ただ、AIが整えた文章が「現場で本当に役立つ手順書」になるかどうかは、別の話です。今回は、AIを使って手順書をつくるときに大切にしたいことを整理します。
きれいな文章と、使える手順書はちがいます
AIに「請求書発行の手順書を作って」と頼むと、一般的な流れを整った文章で返してくれます。見た目は立派ですが、そこに書かれているのは「よくあるやり方」です。その会社、その現場ならではのやり方とは限りません。
実際の仕事には、書かれていない小さなひと手間がたくさんあります。「この取引先だけは締め日がちがう」「金額が大きいときは、念のため上司に声をかけてから送る」「先月と比べて数字が大きく動いていたら、担当者に確かめる」。こうした暗黙のひと手間こそ、仕事の質を支えている部分であり、新しく担当になった人がいちばんつまずくところでもあります。
AIは、こちらが伝えていないことを知りようがありません。暗黙のひと手間を拾い出すのは、その仕事をしている人の言葉です。
AIを「聞き手」として使う
そこでおすすめしたいのが、AIに書かせる前に、AIを聞き手として使う方法です。
たとえば、いつもの仕事の流れを、思いつくままに話したり書き出したりしてもらいます。順番がばらばらでも、言葉が足りなくてもかまいません。それをAIに渡し、「この手順を初めて担当する人の立場で、分かりにくいところや抜けていそうなところを質問してください」と頼みます。
すると、「このとき、どの画面を開きますか」「判断に迷うのはどんな場合ですか」「うまくいかなかったときは誰に相談しますか」といった問いが返ってきます。答えていくうちに、本人も意識していなかったひと手間が、少しずつ言葉になっていきます。手順書の文章を整えるのは、そのあとで十分です。
AIは疲れずに何度でも聞き返してくれる、根気のよい聞き手になります。主役はあくまで、仕事を知っている人の経験です。
読む人と一緒に仕上げる
手順書ができたら、実際にその仕事をしたことのない人に、手順書だけを見て試してもらうのがいちばんの確認方法です。手が止まったところ、首をかしげたところが、書き足すべき場所です。
このとき、書いた人と試した人が短く話す時間をとると、手順書はぐっと良くなります。「ここはなぜこうするのですか」という問いへの答えには、仕事の目的や、お客様への気づかいが含まれていることが多いからです。手順だけでなく「なぜ」が書かれた手順書は、想定外のことが起きたときにも、読む人が自分で考える手がかりになります。
また、手順書は一度つくって終わりではありません。やり方が変わったら、その都度AIに手伝ってもらいながら直していく。直しやすいことも、AIを使う大きな利点です。
手順書は、人から人への引き継ぎです
手順書づくりは、文章を整える作業に見えて、実はある人の経験や気づかいを、次の人へ手渡す仕事です。だからこそ、AIに任せきりにせず、仕事をしている人の言葉と、それを受け取る人の目を中心に置くことが大切だと私たちは考えています。
iTELASは「人を想う心が、AIを価値に変える。」という考えのもと、AIを人の経験を引き出し、つなぐための道具として活かすお手伝いをしています。手順書づくりが止まったままになっている方は、まずはひとつの仕事から、AIを聞き手にして話してみることから始めてみてはいかがでしょうか。